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PUISSANCE(ピュイサンス)

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青葉区みたけ台の閑静な住宅地を通る、美しいケヤキの並木道。その道沿いに、周囲の邸宅に紛れるようにして佇んでいる「PUISSANCE」(ピュイサンス)は、素朴で目立たない外観ながらも、周囲の人々のみならず、遠くから多くのファンを惹きつけている、本格派フランス菓子の店である。

PUISSANCE(ピュイサンス)入口

店の名前の意味はフランス語で「パワー」。「ケーキ屋としてはありえない名前ですよね。フランスだったらガソリンスタンドみたいな名前ですから」と笑って話すのは、この店のオーナーシェフである井上佳哉さんだ。井上シェフは元々西馬込の「メゾン・ド・プティ・フール」からこの道に入り、その後フランスに渡って幾つかの菓子店で腕を磨き、最後に、西馬込の店の師匠にあたる上野毛の名店「オーボンヴュータン」での修行を経て、30歳で独立し、「ピュイサンス」を開店した。最初はこのすぐ近くに店舗を借りてスタートしたそうだが、10年目となった2012(平成24)年に、この店を建て、新店舗に移った。

店内の様子

井上シェフにお菓子の話を聞くと、色々な話題が飛び出してくる。色々なお菓子の話、フランスの修行時代の話、フランスの食文化の話、手作りしているハムの苦労話など、一見物静かそうな方なのだが、お菓子の話となればとても楽しそうに、笑顔を交えて話してくれる。そしてその話題の片鱗には、菓子職人としての強い誇りと使命感を感じることができ、シェフの知識と見識の幅広さ、引き出しの多さを垣間見ることができる。

中でも面白かったのは、見たことも聞いたこともないような焼き菓子を指して、「すごく手間はかかるけど、すごく美味しいんです。だから全然売れないんだけれど、ずっと置いているんです」というお話。この手の「売れないけれど実は美味しいお菓子」は幾つもあるそうだが、実際にそういったお菓子を頂いてみると、実に素朴で味わい深く、通好みの味わい。「フランスの田舎のおばあちゃんが焼いてくれたお菓子」をイメージすればピタリとはまる。

 

ショーウィンドーに並ぶケーキ

種類豊富なチョコレート

素朴な外見、手作りの風合い、自然由来の甘さと香りなど、昨今の華やかなフランス菓子や洋菓子に慣れた人々には、むしろ斬新で新鮮に映るだろう。おそらく売れない理由は「食べたことが無いから不安」とか、「見た目が地味なので」といった消極的なものなのだろうが、それは言ってみれば“食わず嫌い”。この店に来たら、是非「見たことのないお菓子」に着目してみてほしい。

ショーケースに並ぶ品は少量多種で、基本的に1日に1回の作るのみで、追加販売は行っていない。売れるものは早く無くなり、残るのは次第にマイナーな菓子になっていくわけだが、そのマイナーな商品の中に「当たり」商品が多く隠されているという点も、「ピュイサンス」の面白いとことかもしれない。

タルト

こだわりのケーキ

井上シェフにお薦めを聞いてみると、「うちでは“お薦め”というのはしていないんです。“どれもお薦め”と言ってしまえば簡単ですが、自分は自分で学んできた範囲で、フランス菓子という枠の中でこれだけの表現をしているわけですから、お客さんがその中から自分の好みに合ったものを見つけてくれれば、それでいいと思っています」という言葉が返ってきた。

シェフの言葉の通り、この店に並ぶ品は品数もさることながら、横断するジャンルも非常に幅が広い。最も多いのは、修行先の店がそうであったように、焼き菓子の類。それも一般的なパウンド系ばかりではなく、タルトやパイ、クッキー、ヴィエノワズリーなど、他店ではほんの数種しかないようなジャンルも数多く揃えている。その他、生菓子はもちろん、ショコラやジェラートについても季節を問わずに扱っており、「いつ行っても何でも揃う」という安心感がある。日によってはバゲットや、手作りの生ハムの切り落とし、それを挟んだサンドイッチなども並ぶそうだ。

ショーウィンドーに並ぶケーキ

陳列にもこだわり

こだわりのディスプレイ

品数は多いことはこの店の大きな特徴になっているが、どの品もシェフの魂が込められた一品であり、それぞれの品には由来や製法など、色々なストーリーが宿っている。そこから一節だけを選んで、丁寧に手書きを施したプライスタグもまた美しい。厭らしい配色は一切使わず、筆記体で品名と価格を描き、一言のコメントを添える。そのタグの大きさはすべて揃っていて、同じ向きを向いている。この辺りの細やかさから、シェフの人柄も推し量れるというものだ。

ホールケーキ

こだわりのディスプレイ

流行りの店のような“華やかさ”や“分かりやすさ”は無いが、この店には美しさと風格を感じさせる佇まい、シックな色合いで美しく整えられたディスプレイ、野性味をあふれさせながらも、美味を予感させるオーラを宿した菓子達など、「本物の店」の要件が多く備わっている。価格もシェフの手間や素材の吟味を考えれば、決して高くはない。良いお客さんに支えられて、良いお店は存続しているということなのだろう。

「世の中にはこれ(洋菓子店)を商売として考えている人と、職人としてやっている人と、2種類の人がいると思うんですが、自分は職人でありたいと思っています。何かが売れても、そればかりを作るということは一切したくないんです。自分の表現できる範囲で、できるだけのことをやっていきたい。いずれ最後には体力も落ちていくでしょうから、品数も減っていくと思いますけれど、それはそれでいいと思います。最後には品数を絞ってでも、美味しいものを出し続けて、それで職人人生を終えたい。そう思って日々作っています。」

陳列棚に並ぶケーキ

インテリアにもこだわった店内

このように語るシェフの言葉には、一切の澱(よど)みや迷いが無いようだった。周りの同業者仲間からは「この商売はそんな甘くはない」と言われることも多々あるそうだが、それでも商売人ではなく、「職人」として、本物を作り続けたい。そんなシェフの思いが、この店を動かす原動力になっている。昨今の華やかで軽やかな洋菓子を一通り満喫して、「何だか物足りないな」と感じている人は、ぜひこの店を訪れてみて頂きたい。フランス人が何百年と愛してきた、重厚な本物のフランス菓子に出会えることだろう。

PUISSANCE(ピュイサンス)
所在地:神奈川県横浜市青葉区みたけ台31-29  
電話番号:045-971-3770
営業時間:10:00~18:30
定休日:木曜日、ほか不定休
http://www.puissance.jp/


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